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謎をかけてシニカルな笑いで落とした、奇妙な味わいのある短篇小説はこれ。
「僕」は、下町の若旦那の「蔀君」から誘われて、今紀文(一世で富豪となった者)の「飾磨屋さん」が行う百物語の催しに出かけていった。集合場所の船宿に集まった人たちも、到着した会場の古家に詰めかけた客たちも、みんなしらじらしく、一向に盛り上がらない。「僕」の好奇心は、百物語の催しから主催者の飾磨屋本人に移っていく。それとなく観察すると、彼は躁狂の人ではなくて沈鬱の人であるのに「僕」は驚く。そして、その後ろに座っている、美しい芸者の「太郎」に関心が及ぶ。彼女への第一印象は、病人に付き添う看護婦のようである。さらに、飾磨屋は「無形の創痍を受けてそれが癒えずにいるために傍観者になった」のではないかと推理する。飾磨屋を見ているうちに「僕」は他郷で昔なじみに出会ったような気がしてきた。実は、「僕」も傍観者であり‥‥
鷗外は明治現代の短篇小説をたくさん書いた。一つ一つ実験的に試行的に取り組んだ。これらの土台になっているのが、ドイツ語を通して行った同時代の西洋文学の翻訳作業である。鴎外の明治現代短篇小説の中では、私はこの作品を一番に推す。作者が突然「自分は傍観者だ」と告白するのがなんとも奇妙であり、不気味であるからである。
[2回]
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夏目漱石の小説「吾輩は猫である」の世界を舞台にして起こった苦沙彌先生殺人事件を、上海の猫たちが推理競争を繰り広げる推理・冒険・SF小説はこれ。
猫「吾輩」はどういうわけか上海にいて、パブリック・ガーデンにたむろする猫たちと知り合いになる。その猫たちとは、中国猫の「虎」、ドイツ軍人の猫「将軍」、フランスのシャム猫「伯爵」、イギリス猫「ホームズ」、元ロシア領事館の飼い猫「マダム」などである。ある日、「吾輩」は古い新聞で苦沙彌先生が殺害されるという記事を読む。そこで、知り合いの猫たちに、苦沙彌先生殺害事件の状況や彼の生活、人間関係について詳しく話して聞かせる。実は、彼が殺害された自宅の現場は密室になっていたのである。それを聞いて猫たちは探偵活動を始め、その後にめいめいの推理を披露し合う‥‥
ここまでの話の運びは快調であり、ミステリファンとしては胸躍るものがある。しかし、その後のドタバタ冒険活劇や奇想天外なSFの仕掛け、荒唐無稽な終わり方など、ミステリというよりは実験的な文学作品といった趣である。ミステリとしてみた場合、最後に親切で分かりやすい謎解きのないのが残念であるが、漱石の「猫」のファンにとっては楽しめる作品になっていると思う。
[2回]
20世紀初頭の東京の一町内を舞台にして、探偵役の「猫」を狂言回しに中学校教師の苦沙彌先生とその家族、彼の友人たち、地域の人たちなどの生態を活写した滑稽小説はこれ。
この小説に登場する人々は、まず、苦沙彌先生の家族(細君、子供の三姉妹、下女)である。それから、彼の友人たち(美学者の迷亭、理学士の寒月、寒月の友人の東風、実業家の鈴木、会社員の三平、哲学者の独仙など)は変人奇人ぞろいである。また、地域の人たちは実業家の金田、その夫人の鼻子、その令嬢の富子、車屋のかみさん、三弦琴の御師匠さん、医者の甘木、泥棒、刑事の虎蔵、中学生の古井などが出演する。登場人物は、名前にあった型どおりの人柄で、彼らの言動が「猫」の目を通しておもしろおかしく語られる。
作者は自分の一面を苦沙彌先生にうつし、頭はよいが頑固であまのじゃく、神経衰弱の気性を描いている。さらに、探偵を憎み、同時に愛しているという錯綜した心理、「探偵コンプレックス」(荒正人)を抱いている。その中には、自分を探偵されるのは極度に嫌うが他人を探偵するのには興味があるという心理もあると思われる。そこで、探偵役の「猫」の目を借りて、自分や自分を取り巻く人々の言動を戯画的に暴露し、独断と偏見で批評した。たまたま発表の場を得て、作者はこれらを楽しんで創作し、長年自分の頭にしまいこみ腹にためこんだものを吐き出した。そのことにより、作者は探偵コンプレックスを満足させ、神経衰弱を軽減し、精神のバランスを回復させたようである。この小説は笑いと癒しの文学である。
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