夏目漱石の小説「吾輩は猫である」の世界を舞台にして起こった苦沙彌先生殺人事件を、上海の猫たちが推理競争を繰り広げる推理・冒険・SF小説はこれ。
猫「吾輩」はどういうわけか上海にいて、パブリック・ガーデンにたむろする猫たちと知り合いになる。その猫たちとは、中国猫の「虎」、ドイツ軍人の猫「将軍」、フランスのシャム猫「伯爵」、イギリス猫「ホームズ」、元ロシア領事館の飼い猫「マダム」などである。ある日、「吾輩」は古い新聞で苦沙彌先生が殺害されるという記事を読む。そこで、知り合いの猫たちに、苦沙彌先生殺害事件の状況や彼の生活、人間関係について詳しく話して聞かせる。実は、彼が殺害された自宅の現場は密室になっていたのである。それを聞いて猫たちは探偵活動を始め、その後にめいめいの推理を披露し合う‥‥
ここまでの話の運びは快調であり、ミステリファンとしては胸躍るものがある。しかし、その後のドタバタ冒険活劇や奇想天外なSFの仕掛け、荒唐無稽な終わり方など、ミステリというよりは実験的な文学作品といった趣である。ミステリとしてみた場合、最後に親切で分かりやすい謎解きのないのが残念であるが、漱石の「猫」のファンにとっては楽しめる作品になっていると思う。
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