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吾輩は猫である  夏目漱石作

20世紀初頭の東京の一町内を舞台にして、探偵役の「猫」を狂言回しに中学校教師の苦沙彌先生とその家族、彼の友人たち、地域の人たちなどの生態を活写した滑稽小説はこれ。
 この小説に登場する人々は、まず、苦沙彌先生の家族(細君、子供の三姉妹、下女)である。それから、彼の友人たち(美学者の迷亭、理学士の寒月、寒月の友人の東風、実業家の鈴木、会社員の三平、哲学者の独仙など)は変人奇人ぞろいである。また、地域の人たちは実業家の金田、その夫人の鼻子、その令嬢の富子、車屋のかみさん、三弦琴の御師匠さん、医者の甘木、泥棒、刑事の虎蔵、中学生の古井などが出演する。登場人物は、名前にあった型どおりの人柄で、彼らの言動が「猫」の目を通しておもしろおかしく語られる。
作者は自分の一面を苦沙彌先生にうつし、頭はよいが頑固であまのじゃく、神経衰弱の気性を描いている。さらに、探偵を憎み、同時に愛しているという錯綜した心理、「探偵コンプレックス」(荒正人)を抱いている。その中には、自分を探偵されるのは極度に嫌うが他人を探偵するのには興味があるという心理もあると思われる。そこで、探偵役の「猫」の目を借りて、自分や自分を取り巻く人々の言動を戯画的に暴露し、独断と偏見で批評した。たまたま発表の場を得て、作者はこれらを楽しんで創作し、長年自分の頭にしまいこみ腹にためこんだものを吐き出した。そのことにより、作者は探偵コンプレックスを満足させ、神経衰弱を軽減し、精神のバランスを回復させたようである。この小説は笑いと癒しの文学である。

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