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(※犯人を明かしますので、未読の方はこの先は読まないでください。)
この作品を犯人の側から検討してみると、この犯罪に対して情状酌量の余地が大いにある。
まず、鴎外先生が生徒のみのるを密かに思い、隠れて経済的に支援していることは、法に触れるほどの罪とは思えない。ただし、先生と生徒という立場を考えると、表に出ればスキャンダルであることは間違いない。しかし、誰にも知られなければ、先生は少なくとも平穏に過ごせたと思われる。
次に、犯人が二人の女生徒(死んだ生徒、ビナス)を殺そうとしたのは、スキャンダルの発覚を恐れて追い詰められた衝動的な犯行である。さらに、犯行がみのるに知られたため、犯人は絶望の果てからボートで無理心中を図ったが、最後の瞬間にみのるを突き飛ばし、自分だけ激突して木っ端微塵になってしまった。この点も考慮できる。
第三に、被害者の女生徒の事情である。先生に片思いしているからといって、「自分に関心を持ち、愛してくれるように。そうでなければ、秘密をばらす」と脅すのは、お門違いである。この女生徒を突き動かしているのは、自己中心的な嫉妬心である。先生にとってまったくいい迷惑だったのである。
この物語全体を振り返ってみると、「きらわれたら生きてはいけません」というほど思い詰め、恋に狂った女生徒の嫉妬心がこんなにも恐ろしいものであったのか、そこから事件が起こったのだと思わずにはおれないのである。鴎外先生は犯人であるとともに被害者であった。かわいい顔をした女生徒は探偵であり被害者であるとともに、この事件の元凶であったのである。
[1回]
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(※犯人を明かしますので、未読の方はこの先は読まないでください。)
この作品をミステリとしてみた場合、まず気づくのは、謎の作り方と謎の明かし方が巧みである。漫画の始めのほうで、鴎外先生、彼を片思いする死んだ女生徒、その恋のライバルの女生徒(ビナス)が織り成す三角関係が示される。しかし、犯人が分かった時に明かされる本当の三角関係は、主人公のみのる、みのるが片思いするビナス、ビナスが片思いする鴎外先生が形づくる、三つ巴の片思い関係だったのである。鴎外先生からみのるへ補助線を引くことによって謎が解かれる。
第二に、主人公の設定が妙である。主人公のみのるは、語り手であり狂言回しであるが、探偵ではない。容疑者ビナスに恋をしているみのるの視点から物語が進展するので、真実のほうではなく、誤った方向へ誘導されるのである。本当の探偵役はビナスであり、犯行の目撃者でもある。ビナスは、恋する人の真実を知りたくて、みのるを使って証拠を探し、犯人と対決するのである。
第三に、伏線の張り方が幽玄である。謎を解き明かす補助線の鍵が、1ページ目にさりげなく明らかさまに示されている。また、犯人の思いは、物語の中ごろに出てくる、みのると一緒に過ごす春休みの田舎における憩いのひと時が夢のように描かれる。これが伏線になって、最後のページに現れる犯人が夢見た思いを、女生徒の思いに重ねて感じ取らせる表現は優れて漫画的である。おまけに、最後のコマが始めのコマにつながる楽しい遊びも含めて。
[1回]
狂おしく切ない片思いを描いたミステリ漫画はこれ。
つぐみのやってくる大きな森に囲まれた高校を舞台に、早春の三日間にわたる「男と女の愛憎劇」である。
主人公の森島みのるは高校一年生。両親を亡くし、「足長おじさん」的スポンサーが保護者となっている。担任の鴎外先生が彼に目をかけ、いろいろ助言を与えている。
最初のの4ページで、四つの片思いが明かされる。まず、みのるが恋しているのは、学園で人気のある美しい千家八重(ビナス)である。次に、そのビナスは、女生徒のあこがれの的である鴎外先生に思いを寄せている。また、一週間前に湖で自殺したとされる女生徒もその先生に恋心を抱いていたらしい。さらに、みのるのクラスメートの天地のり子(アノン)は彼を好きなようである。
それから、警察では、女生徒の死に不審を抱いて、恋のライバルであるビナスに殺人の疑いをもっていて、いろいろ聞き込みをしている。
鴎外先生からは「ビナスに近よるな」と言われながらも、その夜、みのるは女子寮に入り込み、ビナスにラブレターを手渡す‥‥
女生徒は殺されたのか。もし殺されたのなら犯人は誰なのか。それにしてもなぜ殺したのか。
物語は少しずつスピードを速め、犯人との対決、破局へと一気に突き進んでいく。
最後に、作者は死んだ女生徒の思いを犯人の思いと重ね合わせて、はかなく消えた恋をロマンチックな余韻の中にしずめる。
[1回]
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