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エドガー・アラン・ポー 文学の冒険家  巽孝之作(その3)

 (※「マリー・ロジェの謎」の犯人を明かすので未読の方は読まないでください。)
 さらに驚くべき研究の紹介がある。それはデュパン探偵第二作「マリー・ロジェの謎」の再評価についてである。この作品は現実に起きた事件を題材に作られた小説である。筆者が述べている事柄を、現実の事件と小説の世界とを対比させてまとめてみる。
         (現実の事件)        (作品の事件)  
 時代場所  1841年ニューヨーク    18**年のパリ
 被害者   メアリ・ロジャース       マリー・ロジェ
         タバコ屋の売り子      香水店の売り子
 関係者   ジョン・アンダースン     ルブラン
         タバコ屋の店主        香水店の店主
 探  偵  作家ポー            フランス人デュパン(知的遊民) 
 背  景   アンダースンの執筆依頼  警視総監Gの探偵依頼
          5千ドルの支払い       気前のよい申し出
 犯  人  アンダーソンの疑い      恋人(親しい仲の秘密の知人)
         殺人容疑をそらす       以前の駆け落ちの相手            
 すなわち、作家ポーは、容疑者から口止め料をもらい、この作品を発表することによって事件の隠蔽に一役買っていたことになる、というのである。この新しい解釈は説得的である。第一作「モルグ街の殺人」と第3作「盗まれた手紙」の切れ味鋭いデュパンの推理に比べて、第2作「マリー・ロジェの謎」が枝葉に走り曖昧模糊とした印象をうけるのはなぜかという疑問によく答えているからである。

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エドガー・アラン・ポー 文学の冒険家  巽孝之作(その2)

 (※「モルグ街の殺人」の犯人を明かすので未読の方は読まないでください。)
  ポーが「モルグ街の殺人」を「グレアムズ・マガジン」(1841年4月号)に発表したのが世界初の推理小説の誕生となった。推理小説というジャンルの創造であり、後世に世界的にヒットすることになる「新商品の発明」であった。
この作品は、19世紀の前半パリのモルグ街において、殺人事件が起き、探偵が推理し、意外な犯人が明かされる物語になっている。
  本書において筆者は、この物語を分析し、アレゴリーとして次のように対応させてみせる。(一部追加修正)
           (ポーの生きている世界)    (作品の世界)  
  時代場所  19世紀前半のアメリカ南部  19世紀前半のパリ
  背   景  黒人奴隷制による社会経済  多人種が行き交う街
  探   偵  アメリカ南部の知的貴族    フランス人デュパン(知的遊民) 
  被害者    高潔な南部白人女性      裕福なレスパネー母娘
  犯   人  黒人奴隷            オランウータン
  すなわち、作品に描かれたモルグ街の殺人は、黒人奴隷に対する恐怖心から生まれた幻影であるといえるかもしれない。

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エドガー・アラン・ポー 文学の冒険家  巽孝之作(その1)

 「詩人・小説家・批評家・編集者」を兼ねたポーが行った「多様なジャンルの革新と創造の歩み」を簡潔に述べる、最新最強のポー入門書はこれ。
 ポーの作品の主なものを読むと、まず、ジャンルの多様性に驚かされる。筆者が挙げただけでも、ほら話、旅行記、心理小説、象徴主義文学、科学小説、歴史小説、感傷的ロマンス、ゴシック・フィクション、政治的風刺、推理小説などが示されている。
 筆者はそのポーの意図を、彼の手紙の一節を引用して、こんなふうに示す。「各作品は、短篇集全体の各部分として、それぞれに効果を発揮するものと想定したうえで完成されている。つまり、私の主眼のひとつは、いかに多様な主題や思想、とりわけいかに多様なスタイルやトーンが開拓できるかというところにあったのである。」
 さらに、研究者の一節を紹介してこう付け加える。「ポーは何よりもマガジニスト(雑誌文学第一主義)だった。絶妙なる創作者(詩人・小説家)としての才能とともに、ポーは卓越したジャーナリスト(批評家・編集者)としての能力にも恵まれていた。読者の喜ぶものを熟知して雑誌のために書く」のである。
 そして、筆者は次のような暫定的な仮説を立てる。「ポー文学というのはそれ自身の枠組をあまりにも意識するあまりに、ジャンル/サブジャンルから構築(コンストラクト)されながらも同時に自らそれらを脱構築(デイコンストラクト)していかざるをえない『アイロニーの文学』なのである。」
 小説家ポーの作品の秘密をここまで解明してしまった研究者に敬意を表する次第である。
 ここまで学んできたことを推理小説に引き付けて私はこう言いたくなった。「推理小説というのは、それ自身の枠組をあまりにも意識しすぎると本格もの/変格もの(推理的なもの)から構築されながらも同時に自らそれらを脱構築していかざるをえない、多様なジャンルに拡大・進化していく可能性のある文学なのである。」

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