(※犯人を明かしますので、未読の方はこの先は読まないでください。)
この作品をミステリとしてみた場合、まず気づくのは、謎の作り方と謎の明かし方が巧みである。漫画の始めのほうで、鴎外先生、彼を片思いする死んだ女生徒、その恋のライバルの女生徒(ビナス)が織り成す三角関係が示される。しかし、犯人が分かった時に明かされる本当の三角関係は、主人公のみのる、みのるが片思いするビナス、ビナスが片思いする鴎外先生が形づくる、三つ巴の片思い関係だったのである。鴎外先生からみのるへ補助線を引くことによって謎が解かれる。
第二に、主人公の設定が妙である。主人公のみのるは、語り手であり狂言回しであるが、探偵ではない。容疑者ビナスに恋をしているみのるの視点から物語が進展するので、真実のほうではなく、誤った方向へ誘導されるのである。本当の探偵役はビナスであり、犯行の目撃者でもある。ビナスは、恋する人の真実を知りたくて、みのるを使って証拠を探し、犯人と対決するのである。
第三に、伏線の張り方が幽玄である。謎を解き明かす補助線の鍵が、1ページ目にさりげなく明らかさまに示されている。また、犯人の思いは、物語の中ごろに出てくる、みのると一緒に過ごす春休みの田舎における憩いのひと時が夢のように描かれる。これが伏線になって、最後のページに現れる犯人が夢見た思いを、女生徒の思いに重ねて感じ取らせる表現は優れて漫画的である。おまけに、最後のコマが始めのコマにつながる楽しい遊びも含めて。
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