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つぐみの森  大島弓子作(その3)

 (※犯人を明かしますので、未読の方はこの先は読まないでください。)
 この作品を犯人の側から検討してみると、この犯罪に対して情状酌量の余地が大いにある。
 まず、鴎外先生が生徒のみのるを密かに思い、隠れて経済的に支援していることは、法に触れるほどの罪とは思えない。ただし、先生と生徒という立場を考えると、表に出ればスキャンダルであることは間違いない。しかし、誰にも知られなければ、先生は少なくとも平穏に過ごせたと思われる。
 次に、犯人が二人の女生徒(死んだ生徒、ビナス)を殺そうとしたのは、スキャンダルの発覚を恐れて追い詰められた衝動的な犯行である。さらに、犯行がみのるに知られたため、犯人は絶望の果てからボートで無理心中を図ったが、最後の瞬間にみのるを突き飛ばし、自分だけ激突して木っ端微塵になってしまった。この点も考慮できる。
 第三に、被害者の女生徒の事情である。先生に片思いしているからといって、「自分に関心を持ち、愛してくれるように。そうでなければ、秘密をばらす」と脅すのは、お門違いである。この女生徒を突き動かしているのは、自己中心的な嫉妬心である。先生にとってまったくいい迷惑だったのである。
 この物語全体を振り返ってみると、「きらわれたら生きてはいけません」というほど思い詰め、恋に狂った女生徒の嫉妬心がこんなにも恐ろしいものであったのか、そこから事件が起こったのだと思わずにはおれないのである。鴎外先生は犯人であるとともに被害者であった。かわいい顔をした女生徒は探偵であり被害者であるとともに、この事件の元凶であったのである。

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