衒学趣味の最高峰、有名なので誰もが一度は登ろうとして、多くの者が入り口でつまずいたり途中で引き返したりするし、最後まで登りきった者は下山途中で遭難したり、無事下山しても理解不能や記憶喪失に陥ったりする、壮大な迷宮を内に抱えた魔の山といわれる探偵小説はこれ。
呪われた因縁のある「黒死館」において、不可思議な殺人事件が連続して起きる。毒殺だったり、挟殺だったり、毛布巻き(未遂)だったり、扼殺だったり、銃殺だったり‥‥犯人は殺人を遊び、事件に恍惚としているのだろうか。
探偵役の法水麟太郎は、まるで犯人と一緒に犯罪を楽しむように、意味不明の推理を長々と弁じ、ワトソン役の検事と捜査局長も合いの手を入れてさらに話を長引かせる。そういえば、登場人物もさらに被害者までもが、新しい謎や難問を次々に繰り出し探偵を喜ばしている。事件におびえながらもスリルを楽しんでいるのだろうか。
犯人も探偵も登場人物も被害者もみんなで嬉々として、事件を犯罪をさながら「黒死館迷宮祭り」として祝い楽しんでいるかのようなのだ。
[1回]
PR
南仏のラブラネ町における原子力発電所の建設推進とその反対運動を背景に、ヨハネ黙示録の四騎士にまつわる見立て殺人事件を中心に、キリスト教の異端カタリ派の歴史と秘宝伝説、テロリズムをめぐる思想的対決を配置して病める現代世界を劇的に描く本格推理小説はこれ。
南仏にある財界の帝王ロシュフォールの別荘で、ドイツのミュンヘンの骨董商が殺されるという事件が起きる。彼は、まず石球で頭を殴り殺され、次に弓矢で胸を射られていた。そして、馬小屋では白い馬が殺されていた。まるでヨハネ黙示録の一節をなぞるように。だが、事件当時別荘にいた関係者全員にはアリバイがあったのである。
第二の殺人事件は、カルカンヌの城の塔内で、重要容疑者が縊れて死ぬという事件が起きる。塔は内側から扉のかんぬきがかけられていて、密室状態にあった。彼は自殺したのか。不思議なことに、塔の下では赤毛の馬が射殺されていた。白い馬、赤い馬に続いて、黒い馬、青い馬にまつわる殺人がおきるのか‥‥
探偵役のナディア・モガール「嬢ちゃん」は二転三転させながら迷推理を披露していく。一方、もう一人の探偵役ヤブキ・カケルはカタリ派に関する文書や秘宝を探すことに強い関心を示し、さらに、他者への愛と正義を求めるシモーヌとの思想的な対決を求めていた。
ナディアの悪戦苦闘の推理に、カケルの名推理、探索、対決が加わり、やがてそれらが繋がりあい響きあってパズルの最後の一片がぴたりと収まると、季節は、まがまがしい猛暑の夏から冷え冷えとした晩秋のセーヌ川へと流れ移っていく。
本書は矢吹駆シリーズ二作目。初期三部作の中では一番評価が高い。一作目の「バイバイ、エンジェル」から読むとおもしろさがさらに増す。
[1回]
本格推理の構造に、からくり人形や迷路の衒学的意匠をまとった、遊び心いっぱいの小説はこれ。
玩具会社「ひまわり工芸」は、社長が馬割鉄馬、営業部長がその息子の宗児、制作部長が宗児のいとこの朋浩、という組織で経営されている。朋浩の妻真棹と宗児は不倫関係にあるらしい。その馬割一族に奇怪な死や異常な死が次々と襲いかかる。まず、乗っていたタクシーに隕石が落ちてきて、その事故のため朋浩が亡くなる。次に、朋浩の2歳になる息子が (誤って?)薬を飲んで亡くなる。さらに、宗児の妹香尾里が、見通しのよい(つまり密室状態の)東屋で至近距離から撃たれて殺される‥‥
馬割家の歴史に秘められた謎、「ねじ屋敷」にある五角形の迷路に秘められた謎、連続して起こる殺人の謎に、容疑者に恋するワトソン役の主人公は、真相に迫ることができるのか。一人残った容疑者まで死んだら、謎の解明は一体どうなるのか。
軽快な話術とからくり仕掛けを弄した作者の職人芸が読者をうならせる。
[3回]