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エドガー・アラン・ポー 文学の冒険家  巽孝之作(その1)

 「詩人・小説家・批評家・編集者」を兼ねたポーが行った「多様なジャンルの革新と創造の歩み」を簡潔に述べる、最新最強のポー入門書はこれ。
 ポーの作品の主なものを読むと、まず、ジャンルの多様性に驚かされる。筆者が挙げただけでも、ほら話、旅行記、心理小説、象徴主義文学、科学小説、歴史小説、感傷的ロマンス、ゴシック・フィクション、政治的風刺、推理小説などが示されている。
 筆者はそのポーの意図を、彼の手紙の一節を引用して、こんなふうに示す。「各作品は、短篇集全体の各部分として、それぞれに効果を発揮するものと想定したうえで完成されている。つまり、私の主眼のひとつは、いかに多様な主題や思想、とりわけいかに多様なスタイルやトーンが開拓できるかというところにあったのである。」
 さらに、研究者の一節を紹介してこう付け加える。「ポーは何よりもマガジニスト(雑誌文学第一主義)だった。絶妙なる創作者(詩人・小説家)としての才能とともに、ポーは卓越したジャーナリスト(批評家・編集者)としての能力にも恵まれていた。読者の喜ぶものを熟知して雑誌のために書く」のである。
 そして、筆者は次のような暫定的な仮説を立てる。「ポー文学というのはそれ自身の枠組をあまりにも意識するあまりに、ジャンル/サブジャンルから構築(コンストラクト)されながらも同時に自らそれらを脱構築(デイコンストラクト)していかざるをえない『アイロニーの文学』なのである。」
 小説家ポーの作品の秘密をここまで解明してしまった研究者に敬意を表する次第である。
 ここまで学んできたことを推理小説に引き付けて私はこう言いたくなった。「推理小説というのは、それ自身の枠組をあまりにも意識しすぎると本格もの/変格もの(推理的なもの)から構築されながらも同時に自らそれらを脱構築していかざるをえない、多様なジャンルに拡大・進化していく可能性のある文学なのである。」

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