映画の007シリーズは、1962年に第1作「007/ドクター・ノオ」(初公開は「007は殺しの番号」)がつくられてから2000年までで第21作になっている。その中で第3作の「007/ゴールド・フィンガー」と並んで人気があり評価の高いのは、第2作の「007/ロシアより愛をこめて」(初公開は「007/危機一発」)である。B級スパイ・スリラー小説が、長寿シリーズ映画になったのはどうしてか。
第一に、原作のボンド小説は、世界各地を舞台にさまざまな趣向を凝らした見せ場、残酷趣味やエロチシズムを売り物に娯楽本位の安定した水準を維持していることが、映画のシリーズ化に役立っている。さらに、映画ではの華麗なスペクタクルな場面を演出している。<br>
第二に、この映画では、列車内におけるボンドと殺し屋の死闘、ヘリコプターからの襲撃、ボートを駆使しての追撃戦など小説にない場面をも追加して、アクションにスピード感を持たせ、ストーリーのリズムに加速度をつけて、クライマックスを盛り上げている。<br>
第三に、この映画では、シニカルな見方とユーモアの要素を加味し、気の利いた科白や粋なジョーク取り入れている。また、大衆的な映画として、残酷な描写やセックスシーンに過激にならないように配慮している。政治的配慮から、敵役はソ連の特務機関ではなく、国際犯罪組織スペクターにしている。<br>
その他に、オープニングのボンドが暗殺されるショッキングなシーン、悪女ローザが掃除婦に扮してボンドを襲う滑稽な最後のシーン、ヒットした主題歌、スパイ活動の小道具など楽しい見所が多い。
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1950年代の東西冷戦を背景に英国の海外秘密情報部とソ連の特務機関スメルシュとの対決を枠組として、情報部員007号ことジェームズ・ボンドの冒険と活躍を描くスパイ・スリラーはこれ。ヒローあり、悪人や美女あり、陰謀や罠があり、絶体絶命の危機がある、「西洋版おとなの紙芝居」(都筑道夫)である。
スメルシュは、女好きのボンドに罠をかけて復讐を図ろうと計略を立てる。ソ連情報センターの暗号係の女が、ボンドの写真と書類を見てひとめぼれした、暗号機を持ち出して西側に亡命するので、トルコからイギリスまで護送してほしい、というのである。スメルシュは、護送途中のオリエント急行の中でボンドの暗殺を図るという絵を描く。スメルシュの計略どおりボンドに、首席死刑執行官グラントの魔の手が忍び寄っていく‥‥
原作が映画化され世界的にヒットしたため、小説も評判をよんだ。作者のフレミングは、ボンド小説について「派手な撃ち合いに美女とのお楽しみ、という作者の熱い願望を形にしたものなのである」「熱い血を持った異性好きの人々に、汽車や飛行機やベッドの中で読んでもらうように書かれたものである。」と語っている。
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英国情報部に勤務した体験を素材に、諜報活動にまつわる悲喜劇を描いたスパイ小説の古典はこれ。
連作読切の形式で16のエピソードになっている。さらに大きく六つの話にまとめられる。エジプトのアリ殿下に雇われている老家庭教師の「ミス・キング」の話。元革命軍の将軍で、今はスパイになっている、人殺しも厭わない、女好きの「毛無しメキシコ人」の話。インドの武装ゲリラ組織のメンバーで、ヨーロッパで陰謀をたくらみ運動している「活動家」の話。愛国心の強いドイツ女を妻にしているイギリス人のスパイ「裏切り者」の話。ある国に駐在しているイギリス大使の「若気の恋」の話。ロシア革命中におきたアメリカ人会社員の「洗濯物」の話。‥‥
ささやかながら、モームが見た、第一次世界大戦下における国際政治状況を映し出してみせる。
情報部員としての冷静な自己省察、諜報活動における皮肉な人間観察、読者の心をつかんで離さない語り口など、さすが短篇小説の名手モームである。
今度、岩波文庫から新訳(中島賢二・岡田久雄訳)が出たので、また読んでみた。文章がこなれていて読みやすい。久しぶりに小説のおもしろさを堪能した。
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