ミステリのジャンルを越えて集められた世界の作家42人による文学の香り高きミステリあるいはミステリアスな味のする小説はこれ。
この短篇集は有名なミステリ作家からユニークな小説家まで世界各国の中から選ばれている。たとえば、D・E・ウェストレイク、P・D・ジェイムズからカーヴァー、ボルヘスまで広範な目配りである。日本からは三島由紀夫が出ているが、安部公房のほうがふさわしいように思える。
この本ではじめて読む作家の作品も多く、奇妙で不思議な味わいになっている。ミステリ的な想像力がかきたてられ、さらに広がり深められる思いに駆られる。本格フアンを挑発する、刺激的な短篇集である。本書は1995年に早川書房から発行された。
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アフリカ奥地のソロモン王の洞窟に眠る秘宝をめぐってイギリス人三人の想像を絶する冒険を物語る英国冒険小説の古典的名作はこれ。
狩猟家のクォーターメン、英国紳士のカーティス卿、元海軍士官のグッド大佐の三人はソロモン王の洞窟の地図を手がかりにして、灼熱の砂漠や酷寒の雪原を越えてゆく。そして、彼らが到達したところは山脈にとりかこまれた広大な草原だった。しかし、この美しい風景のククアナ国で彼らを待っていたのは、残忍な国王ツワラと魔法使いの老婆ガグールによる恐るべき大虐殺だった‥‥
ストーリーは力強く進み、躍動感にあふれ、最後まで一気に進む。読者は手に汗握り、主人公たちの活躍に眼が離せなくなる。創元推理文庫に大久保康雄訳の完訳決定版がある。
[1回]
名誉と勇気を重んじ、時代遅れの騎士道精神に満ちた私立探偵スペンサーを主人公にした長寿シリーズ(全39作)の第6作はこれ。
ボストンの私立探偵スペンサーは、急進的な女性解放論者レイチェル・ウォレスの護衛を頼まれるが、彼女とは意見が合わず解雇される。しかし、レイチェルが過激派に誘拐されると、スペンサーは囚われの彼女を捜して大雪のボストンを走り回る‥‥
単純なストーリーに力強い筋運び、泣かせどころを心得たクライマックス、フェミニズムをめぐる論議、恋人スーザンとのやり取り、料理に対する一家言など、ハードボイルドを超えて新しい小説世界を創り出している。
プロ作家としてのサービス精神旺盛で、一作ごとにストーリーに新たな変化をつけ、工夫を凝らしている。また、脇役を増やしたり登場人物を再登場させたりして読者の興味をつなぎ関心を広げている。
人気の高い第7作の「初秋」と評判のよくない第12作の「キャッツキルの鷲」とでは、同じ主人公とは思えない話になっているが、どちらもそれなりにおもしろかった。
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