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第二の銃声  アントニイ・バークリー作

 本格の謎解きをいじって幾つもの解決を提示し、最終となるはずの解決をさらにひっくり返してしまうブラック・ユーモア・ミステリはこれ。
 国書刊行会発行のカバーにある、簡潔にして要領を得た紹介文を借りると、「探偵作家ジョン・ヒルヤードの邸で作家たちを集めて行なわれた殺人劇の最中、被害者役の人物が死体となって発見された。殺されたのは放蕩な生活で知られる名うてのプレイボーイ。パーティには彼の死を願う人物がそろっていた。事件の状況から窮地に立たされたピンカートン氏は、その嫌疑をはらすため友人の探偵シェリンガムに助けを求めた。錯綜する証言と二発の銃声の謎、二転三転する論証の末にシェリンガムがたどりついた驚くべき真相とは?」
 物語の中には犯人にいたる手がかりと誤りに導く手がかりが幾つもちりばめられ、目くらましをくらわせている。構成も凝っていてプロローグ(新聞記事、報告書)、ピンカートン氏の草稿、エピローグの三部構成である。犯人が分かると、この構成の必然性に納得がいく。ミステリの愛読者なら探偵役のシェリンガムと同じ結論にたどり着くが、皮肉の好きなすれっからしの愛読者なら、たぶん真犯人を当てることができそうである。それにしても完全犯罪をはぐらかし迷宮に引き込む「第二の銃声」の皮肉が利いている。

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カラマーゾフの妹  高野史緒作

 ドストエフスキーの小説「カラマーゾフの兄弟」を下敷きに、その続編をミステリ仕立てに書いたというので、読んでみた。
 カラマーゾフ事件が起きて13年後のこと、内務省モスクワ支局未解決事件課特別捜査官イワン・カラマーゾフが故郷の地方都市に帰ってきた。カラマーゾフ家の次男であるイワン捜査官は、父親殺しの真相を明らかにすべく、父親フィードルの墓を掘り返し棺を開けた。その頭骨を検分すると、犯行に使われた凶器は、真犯人の私生児スメルジャコフが使ったという文鎮ではなく、無実の罪に服した長男ドミートリーが持っていた胴の杵であった。もと見習い修道士で今は教師をしている三男アレクセイ、「事件」の元凶となった女性グルーシェニカなど「兄弟」に登場するおなじみの面々が顔をそろえる。やがて殺人事件が起こり、謎が謎を呼ぶ。さらに思わぬ展開が繰り広げられ、現在の殺人事件と13年前のカラマーゾフ事件の真相が明かされる‥‥
 小説「カラーマゾフの兄弟」を本格推理小説に再創造する場合、誰を犯人にするのが一番自然なのかと考えた時に、当然あの人になるにちがいないという人物が犯人になっている。ただ、犯人となる人物像と理由づけに対して、リアリティのある描写と納得のいく説明がとても難しくなる。作者の挑戦は必ずしも成功したとは言えないが、「前任者」の物語を引き継ぎ、本格推理の枠組の中で、奔放な想像力を働かせて創り上げた物語は、それなりに楽しめる。作者の健闘を讃えたい。

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ABC殺人事件  クリスティー

 ミステリの大技小技を繰り出して無差別連続殺人のテーマを謎解き小説に創り上げたクリスティーの傑作はこれ。
 名探偵ポアロのもとに、ABCと名乗る者から殺人予告の手紙がくる。その予告どおり、Aで始まる地名の町で、Aで始まる名前の老婆が殺される。それから、Bの地でBの娘が殺される。さらに、Cの地でCの紳士が殺される。いずれの現場にも、ABC鉄道案内が残されていた‥‥
 表のプロット「無差別連続殺人」を必然足らしめるために、裏のプロット「三人称の挿話」をからめてすっきりした謎解き小説に仕上げている。今度、新訳(堀内静子訳、早川書房)で再読してクリスティーのすばらしさを見直した。さらに法月綸太郎の解説を読んで目からうろこが落ちた。

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