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模倣犯  宮部みゆき

マスコミを通して世間の人々を楽しませる(という妄想の?)ために連続誘拐殺人事件をひきおこす新しい犯人像を創り出した社会派ミステリの大作はこれ。
 幾つかの殺人事件をめぐって、犯人、被害者、その家族、事件の関係者、警察官、記者、マスコミ関係者など、それぞれが行動し考えを述べ感情を表し自分の役割を果たしていく。主な登場人物の行動や心理を微細にありありと描き、たくさんの登場人物を関係させ交錯させてつむぎだし織り上げて創った物語。
 上巻、下巻あわせて1419ページの長大な小説を読ませるための仕掛けや技術は並大抵のものではない。小さなエピソードを積み重ね、事件の伸展を図りながら、劇的な展開を要所に配置して、読者の興味関心をつないでゆく。優れたストーリーテーラーである。
 作者の小説を「火車」(1992年)、「理由」(1998年)、「模倣犯」(2001年)と読んでくると、一作ごとに新しい趣向を凝らし新しい物語を作り出していることに気づく。社会派ミステリとして松本清張の作品と比べても優るとも劣らない作品に仕上がっていることをうれしく思う。

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安部公房とわたし  山口果林

かって「砂の女」や「燃えつきた地図」などの小説をおもしろく読んだので、作者の安部公房にはずっと関心をもっていた。本書の帯にあるキャッチフレーズ(その作家は夫人と別居して女優との生活を選んだ。没後20年、初めて明かされる文豪の「愛と死」。)にひかれて読んでみた。
 公房を中心にして妻の真知と愛人の果林の三角関係の話である。果林が公房に「本格的に出会う」年、1969年というと、公房が45歳、真知が43歳、果林が21歳である。公房は文学活動が最も充実していた時期であり、果林は役者を目指して活動していた時期である。その後、二人の愛人関係が秘かに24年間続くことになる、公房の病死に至るまで。本書は、さらに、作者が公房の死を受け入れて、立ち直り、再出発するまでの心境を書き記している。おそらく、作者が60台半ばに達して、この真実を誰にも知られずに墓場まで持っていくのはあまりにも切ないと感じたのだろう。
 しかし、世間の常識から考えると、二人の関係は不倫関係である。公房は1980年に妻と別居したが、死ぬまでに離婚の至らなかった。1993年に公房が亡くなると、その年に真知も亡くなる。あまり言いたくはないが、一番悪いのは公房であり、一番理不尽な苦しみを受けたのは妻の真知であるとつい同情してしまうのである。
 若い女優が、作家であり演出家でもある尊敬する人に愛を尽くしたのか。あるいは、嫌らしい中年男が、けなげな若い女をもてあそんだのか。はたまた、純真でうぶな四十男が、したたかで可愛い女に翻弄されたのか。謎は深まるばかりである。
 本書の表紙や口絵に載っている作者の写真を見ると、とても魅力的で愛らしく、この誘惑に抵抗できる四十台の男性はほとんどいないだろう。あの時に魔のさした公房に納得してしまう。

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ハサミ男  殊能将之

「東西ミステリーベスト100」(2012年)では、本書が84位にランクインしているので、読んでみた。
 探偵役がユニークである。二人の美少女を殺している「ハサミ男」と呼ばれている犯人である。殺人願望と自殺願望を併せもっている。また、人格が「わたし(アルバイト社員)」と「医師」の二重に分裂していて、相互の会話が成り立っている。
 その「ハサミ男」が探偵役におちいる状況設定も変っている。三人目の獲物を張り込んでうろついているうちに、いつの間にかその美少女が殺されてしまったのだ。偽者の「ハサミ男」の凶行の発見者になってしまう。公園において、首にハサミを突き刺された死体を前にして、通行人がやってくるという状況で、本物の「ハサミ男」は、所持していたハサミを茂みに投げ捨ててしまう‥‥
 物語は「ハサミ男」の探偵と警察側の捜査が交互に進み、最後に二重のどんでん返しが待っている。お楽しみに!

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