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安部公房とわたし  山口果林

かって「砂の女」や「燃えつきた地図」などの小説をおもしろく読んだので、作者の安部公房にはずっと関心をもっていた。本書の帯にあるキャッチフレーズ(その作家は夫人と別居して女優との生活を選んだ。没後20年、初めて明かされる文豪の「愛と死」。)にひかれて読んでみた。
 公房を中心にして妻の真知と愛人の果林の三角関係の話である。果林が公房に「本格的に出会う」年、1969年というと、公房が45歳、真知が43歳、果林が21歳である。公房は文学活動が最も充実していた時期であり、果林は役者を目指して活動していた時期である。その後、二人の愛人関係が秘かに24年間続くことになる、公房の病死に至るまで。本書は、さらに、作者が公房の死を受け入れて、立ち直り、再出発するまでの心境を書き記している。おそらく、作者が60台半ばに達して、この真実を誰にも知られずに墓場まで持っていくのはあまりにも切ないと感じたのだろう。
 しかし、世間の常識から考えると、二人の関係は不倫関係である。公房は1980年に妻と別居したが、死ぬまでに離婚の至らなかった。1993年に公房が亡くなると、その年に真知も亡くなる。あまり言いたくはないが、一番悪いのは公房であり、一番理不尽な苦しみを受けたのは妻の真知であるとつい同情してしまうのである。
 若い女優が、作家であり演出家でもある尊敬する人に愛を尽くしたのか。あるいは、嫌らしい中年男が、けなげな若い女をもてあそんだのか。はたまた、純真でうぶな四十男が、したたかで可愛い女に翻弄されたのか。謎は深まるばかりである。
 本書の表紙や口絵に載っている作者の写真を見ると、とても魅力的で愛らしく、この誘惑に抵抗できる四十台の男性はほとんどいないだろう。あの時に魔のさした公房に納得してしまう。

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