マスコミを通して世間の人々を楽しませる(という妄想の?)ために連続誘拐殺人事件をひきおこす新しい犯人像を創り出した社会派ミステリの大作はこれ。
幾つかの殺人事件をめぐって、犯人、被害者、その家族、事件の関係者、警察官、記者、マスコミ関係者など、それぞれが行動し考えを述べ感情を表し自分の役割を果たしていく。主な登場人物の行動や心理を微細にありありと描き、たくさんの登場人物を関係させ交錯させてつむぎだし織り上げて創った物語。
上巻、下巻あわせて1419ページの長大な小説を読ませるための仕掛けや技術は並大抵のものではない。小さなエピソードを積み重ね、事件の伸展を図りながら、劇的な展開を要所に配置して、読者の興味関心をつないでゆく。優れたストーリーテーラーである。
作者の小説を「火車」(1992年)、「理由」(1998年)、「模倣犯」(2001年)と読んでくると、一作ごとに新しい趣向を凝らし新しい物語を作り出していることに気づく。社会派ミステリとして松本清張の作品と比べても優るとも劣らない作品に仕上がっていることをうれしく思う。
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