短編集(五)(六)は推理小説である。彼の推理小説は、現代社会の中に生きる人間、日常生活の中に生きる人間が現実感をもって登場し、その人間が引き起こす犯罪が現実感をもって物語られる。
(五)の表題作「張込み」では、張込みをする刑事の眼を通して、平凡な主婦の隠されていた過去と秘められていた情熱を描いている。また、(六)の表題作「駅路」では、捜査する刑事の眼を通して、定年で退職したばかりの平凡な男の失踪と悲しい末路を語っている。
本格的な謎解きは少ないが、リアリティのある登場人物、社会性のある犯罪動機、読者の興味を引く話の構成、徐々に解明されていく真相、さらには文学的な味わいなど、小説を読む楽しさが堪能できる。
松本清張は、その後、旺盛な好奇心のおもむくまま精力的な創作活動を繰り広げ、現代小説、歴史小説、推理小説、古代史、現代史、ノンフィクションなどに膨大な作品群を残した。文学界に与えた影響は多大なものがあった。特に、推理小説界では著しく、「清張前、清張後」という言葉が生まれたほどである。
清張は本格的な推理小説にも理解があり、作品数は少ないが、長篇では「点と線」や「砂の器」などを残している。
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