(犯人を明かしますので未読の方は読まないでください。)
この作品を難解にしている第二は主人公の設定である。主人公の「私」は過去の記憶を失って頭が狂っている。その「私」が自分を取り戻そうとする物語である。
ストーリーが進むにつれて、「私」は自分が、母親を殺し、許婚を殺した男「呉一郎」らしいと思われくる。その「呉一郎」は、心理遺伝によって、唐時代に美女を殺して絵を描いた画家「呉青秀」の心理を受け継いでいる。そのため、因縁のある絵巻物を見ると、「呉青秀」が「呉一郎」に現れてくる。
記憶喪失で狂人の「私」‥‥許婚を殺した「呉一郎」‥‥心理遺伝で受け継がれた「呉青秀」という、一人の人間における三重の関係になっている。
さらに、主人公をめぐる二人の博士の設定が話をより複雑にしている。
正木博士は、因縁の絵巻物を見せることにより、この「呉青秀」を「呉一郎」の上に蘇らせることで心理遺伝の症例にしたいと考えている。一方、若林博士は「私」の記憶を取り戻して「呉一郎」にもどし、事件を引き起こした犯人(正木博士)を明らかにしたいと考えている。そして、そのことを彼の研究の最も重要な例証にしたいとも考えている。
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