はかない恋といえば、きわめつけの小説はこれ。若いころ読んだ時は、物語られた正夫と民子の心情をあわれに思いせつなく感じるとともに、歌い上げるような自己陶酔的な語り口に辟易した。しかし、老い先短くなってきたころに読み返すと、若い人の幼い恋を清らかに歌い上げているところがすがすがしいと思えるようになってきた。
ヘミングウェイの「老人と海」にも同じような感慨をもつようになった。作者は、老人の心に感情移入し、感傷的な叙述に終始する。この叙事詩ともいえる作品を読んで、老人の負けじ魂に心を打たれるとともに、自己陶酔的な心情の吐露に恥ずかしさも感じた。しかし、老人の年にだんだん近づいていくと、まっすぐに老人の不屈の精神を歌い上げているのが、かえって素朴で力強く、好ましく思えるようになってきた。
歌人や詩人の自己陶酔の心が作品にまっすぐな力強さを与えている。
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