エラリイ・クイーンのミステリには、国名シリーズと並んで有名な、バーナビイ・ロスという別のペンネームで書いたドルリー・レイン四部作がある。「Xの悲劇」「Yの悲劇」「Zの悲劇」「ドルリー・レイン最後の事件」の四作品である。前二者の評価は高いが、実は四冊全体を通して大きな仕掛けがほどこされている。
「Xの悲劇」「Yの悲劇」どちらもおもしろいが、最後のあっという犯人の意外性では「Y」のほうが優れている。
探偵役のレインは、引退したシェイクスピア劇の俳優で、聾者だが読唇術ができて会話には不自由しないという設定である。
富豪のエミリー老夫人が屋敷の寝室においてマンドリンで殴打されて殺されるという事件が起きる。犯行現場には、老夫人が溺愛していた娘のルイザいた。ルイザは悪性遺伝のため盲目で聾唖の女性で、点字盤を使ってレインの質問に答える。彼女は犯人に触れてにおいをかいでいた。犯人はほおがすべすべしていて、ヴァニラのにおいがしていたというのだ。
このシーンでは思わず背筋が寒くなり、これはいったいどういうことなんだと無気味な想像をたくましくしてしまう。
[3回]
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