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Yの悲劇  エラリー・クイーン作(その2)

 厳格なパズル小説の中で、今でも人気を誇る古典的な名作はこれ。
 本書はヴァン・ダインの「グリーン家殺人事件」や「僧正殺人事件」から影響を受け、それらを乗り越えるべき作品として執筆されたと思われる。いずれの作品もストーリーにおいて、時間と場所を明示しての叙述、呪われた一族の富豪の屋敷を舞台に連続して起こる殺人、探偵側の捜査と情報収集、衝撃的な真犯人の指摘、手がかりになる情報を基にしての推理などの順を踏んでいる。特に、ミステリの技法としては、始めの犯人の隠し方や終わりの犯人の処し方が似ている。クイーンの創意は、探偵に哲学的な課題を与え、悩める探偵を文学的に描いているところである。探偵役のドルリー・レーンが犯人を裁くためにいろいろ手を尽くし苦悩する。それが犯人の指摘にも劇的な効果をあげている。
 ちなみに、「アメリカ探偵作家クラブが選んだミステリBEST100」(1995年)の「ザ・ランキング」表を見ると、日本で人気の高い「Yの悲劇」や「僧正殺人事件」はおろか、クイーンの作品やダインの作品は一冊も入っていないのが興味深い。パズル小説には、推理に必要な(あるいは不必要なものも含めて)、細々とした情報や説明がどうしても入ってくる。読者に次のページをめくらせるスリルやサスペンスが持続せず途切れてしまうのが、多数派になれない理由である。

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