黄色い部屋の密室殺人未遂事件をめぐって青年記者ルールタビーユと凶悪な犯人との息詰まる戦いを描くフランス・ミステリの古典的名作はこれ。
この小説では三つの密室があらわれる。第一の密室は黄色い部屋で、完全な密室である。ドアや窓は完全に閉じられた部屋の中から、マチルダ嬢の悲鳴と銃声が聞こえてきた。父親のスタンジェルソン博士とジャック爺さんが鍵のかかったドアをやっとのことで開けると、瀕死の娘が床に倒れていた。一体犯人はどのようにして逃げたのか。第二は密室ともいうべき状況である。三方から待ち伏せされたT字路の廊下で、逃げてきた犯人が忽然と消えてしまう。第三も夜間の野外における犯人の消失である。濠と高い鉄柵に囲まれた広場の一郭に三人によって追い込まれた犯人は、別人の死体を残して消えてしまう。これらの謎を探偵役のルルータビーユが合理的に解明する。犯人の動機も被害者の不可解な態度もひいては密室のトリックも、隠された過去の出来事に由来していた‥‥
本書は古きよき時代のミステリという言葉にぴったりの小説である。完全な密室での不可能な犯行は、種明かしされると、コロンブスの卵である。「あ、そうなのか」というほど簡明だった。残りの二つの準密室も、「え、そんなのありか」というほど単純でほほえましい解答だった。そして、そうであるからこそ後世のミステリ作家に与えた影響は甚大なものがあったと思われる。
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