男女二人の出会いと破滅を描き、社会派推理小説のジャンルを越えて新たに切り開いた小説の地平はこれ。
北海道に大きな台風がやってきた。函館から百二十キロ離れた岩幌の町で、町の三分の二が焼失するという大火災が発生した。その火元は質屋で、強盗殺人犯による放火と思われた。捜査の進展で分かったことは、三人組による犯行らしいのである。
一方、津軽海峡の海上で、青森函館間の連絡船が沈没するという大事故が発生した。多数の死体が引き上げられたが、その中に身元不明の死体が二体あった。この二体は強盗殺人犯の三人組のうちの二人と分かった。もう一人はどこに行ったのか。
その犯人と思われる「見知らぬ男」は、たまたま出会った売春婦に優しくしてもらった感謝の気持ちから衝動的に大金を与えて去っていった‥‥
この二人が十年の月日を経て再度出会った時、新たな殺人が引き起こされる。突きつけられた証拠から分かった、殺された女の真情が、犯人の魂を激しく揺さぶる。
警察の地道な捜査活動を通して徐々に浮かび上がってくるのは、貧困のどん底から這い上がり、過去の犯罪を隠し更生しようとして実業家に成り上がった男、社会の底辺で売春婦として生き、そこから抜け出そうとして果たせなかった女、二人の宿命的な出会いが作り出す、恐ろしくも悲しく哀れな物語である。
[4回]
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