作者の二つの分身、主人公「僕」とその友人の「鼠」。「僕」は羊を探し歩き、羊の居場所を知っている「鼠」を北海道の別荘で見つける。そして、羊を飲み込んだまま自死したことを本人の口から聞き出す。彼は羊の支配する権力を拒否し、自分の弱さ優しさに殉じて滅びることに救いを見出したという。羊を見つける冒険は、失踪した「鼠」の死を受け止める旅であり、「鼠」につながる青春に別れを告げる儀式でもあったのだ。
「僕」は青春を通り過ぎる中でいろいろな人に出会い、いろいろな人を失ってきた。後悔や悲哀、喪失や虚無を感じながらも、分身の「鼠」を心を込めて葬り去り、その青春に別れを告げることにより、新しい出発を予感するのだった。
人は生きていくうえでいろいろなものを獲得していくとともに、いろいろなものを喪失していく。特に青春期においては、友人や恋人であったり優しさや純粋であったり家庭や仕事であったり野望や革命であったり‥‥これら青春を彩りあるいはたぶらかす幻想は、やがて青春とともに変化し喪失していく運命にある。青春と決別し喪失を心の底で受け止めることが、新しい出発を生み出す。この作品は、普遍的な主題を羊をめぐる冒険としてセンチメンタルにシュールに描きあげた青春卒業小説である。
[2回]
PR
お探し物がありましたら、こちらからどうぞ