ベルリンの刑事事件弁護士として活躍する作家が書いた、ミステリというよりは文学的味わいの濃い、犯罪をテーマにした短編集はこれ。
この中に収められている短編「正当防衛」を読んでみる。暴力的な非行少年の二人組みが、人気のない駅の構内で、四十半ばの会社員風の男にからんでおどしをかけ、エスカレートしてくる。一人はナイフで男の手や胸を傷つけ、もう一人は金属バットで殴りかかろうとする。男のすばやい動き、一瞬の出来事のあとに、二人ともホームに倒れて横たわり死んでしまう。男はベンチに座ってタバコに火をつけ、逮捕されるのを待っていた。警察の取調べに対して、男は完全な黙秘を続け、身元の調査では何一つ明らかにならなかった。駅のビデオカメラには、男の正当防衛を証明する映像が残っていた‥‥
簡潔な事実の描写、省略した経過の説明、すばやい場面転換、効果的な行開け、想像を膨らませる暗示、余韻ある結びかたなどさりげない巧さがにくい。
この本には、11の短編が載っている。どの小説も、犯罪という切り口から人生や社会の一断面が鮮やかに見えてくる仕掛けになっている。
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