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燃えつきた地図  安部公房作 (その2)

 この小説は迷路のようにつくられた作品である。迷路には本道、脇道、横道、裏道、行き止まりなどがあるように、この小説にも探偵が失踪者を探すという本筋により合わさって、大小さまざまなエピソードが絡んでくる。
 失踪人の妻の弟は、学生運動で退学した後、組の者になり、工事現場の労務者を相手にする飲み食いの商売や売春を仕切っていたが、労務者たちの日ごろからの不満や反感が爆発して、襲撃にあい殺されてしまう。一方、会社員の田代は、調査員の「ぼく」と一緒に、失踪人が撮ったヌード写真のモデルと思われるスタジオの女に会いに行き、別人だと分かる。それから田代はいろいろな嘘を重ね、後で電話で「自殺する」と脅し、本当に自殺してしまう。さらに、コーヒー店における、得体の知れない朝の集まりは、臨時運転手を相手にしたもぐりの職業斡旋所のようであった。後日、そこを調べに行った「ぼく」は、袋叩きにあって放り出されてしまう。
 小さいエピソードとして、小型バスのラーメン店のひげ面の男、図書館で写真のページを切り取る女子学生、洋裁店を営んでいる別れた妻、家出少年の売春の話、スタジオのモデル嬢の話など印象的な迷路を仕組んでいる。
 この作品はある都会における昭和42年2月2日から14日までの物語である。そこで描かれているのは、小説の中で示されている新聞記事「蒸発人間86,254人」に象徴されような1967年の日本の情況である。この実験的な前衛小説は、1967年日本のドキュメンタリー小説となっている。

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