少年の成長物語といえばこれ。主人公の次郎は、いろいろな体験を重ねながら少しずつ成長していく。
悪く言えば、ひねくれた、負けずぎらいで、乱暴なところのある次郎は、無教養な乳母お浜の手放しの愛情、教育熱心な母親お民とのしっくりしない愛情、祖母の兄弟における次郎への差別、父親の教育に対する理想主義的な態度などなど家族の中で、学校や近所の子どもたちのかかわりの中で、学び成長する。そして、何といっても次郎を一番成長させるのは、やはり母親との死別という体験である。
母親お民は病床で次郎とお浜に向かって「この子にいやな思いばかりさせて」「あたし、このごろ、いつもこの子に心の中であやまっているのよ」「この子もどうやらあたしの気持ちがわかっているようだわ」と言って安心し、やがて不帰の人となる。次郎にとって幸せだったのは、母親と心を通わせることができ、母親の「澄みとおった愛」を感じることができたことであった。
第一部の最後にあらわれたこの場面からさかのぼって考えると、作者は、子どもの人間的な成長には、乳母お浜のような「芳醇な」愛情と母親お民のような教育的な理想との二つが必要であるが、まず第一に大切なのは前者である言いたいのである。お民が最期に言った言葉は「子供って、ただかわいがってやりさえすればいいのね。」だった。この平凡にも見える隠された主題は、次郎の成長する姿をたどると説得的である。
[2回]
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