短編集(三)(四)は歴史小説である。(三)の表題作「西郷札」は作者の処女作である。この小説は、明治十年の西南戦争を時代背景に、薩軍が発行した軍票を題材にしている。車夫になった主人公、義妹、その夫である高級官吏の人間関係を配置して一つの物語をつむぎだしている。フィクションに現実感を与えて描き出す手練はみごとである。
第二作の「くるま宿」では明治九年の時代を背景に、世の中に取り残され落ちぶれていく士族の悲しみを描いている。その物語から時代の中に生きる人物を印象的に浮かび上がらせる技法は確かである。
(四)の表題作「佐渡流人行」では、上役の佐渡支配組頭、金山の取り締まりの役人、その妻、妻との仲を疑われた水替人足などの人物を配置して、少しずつ明らかになってくる話の筋に惹かれて、最後のどんでん返しまで一気に読ませる。読者の興味をつかんで離さない巧みな構成と語り口。天性のストーリーテイラーである。
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