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すべてがFになる  森博嗣 

意味深長な題で引き付け、巧みなトリックの組み合わせで新しい密室殺人を創り上げたゲーム小説はこれ。
 講談社文庫の裏表紙の簡潔な紹介文によると、「孤島のハイテク研究所で、少女時代から完全に隔離された生活を送る天才工学博士・真賀田四季。彼女の部屋からウエディング・ドレスをまとい両手両足を切断された死体が現れた。偶然、島を訪れていたN大助教授・犀川創平と女子学生・西之園萌絵がこの不可思議な密室殺人に挑む。」とある。
 登場人物が平板でリアリティがないとか、事件の設定が仮想的で作り物めいているとか言っても仕方がない。萌絵に「現実って何でしょう?」と問われて、探偵役の犀川が「現実とは何か、と考えた瞬間にだけ人間の思考に現れる幻想だ」と答える。登場人物も殺人事件も物語の進展もすべては密室殺人の成立に奉仕させられている。ないものねだりをしないで読めば、ゲームとしての謎解きを楽しむことができる。
 トマス・ハリスの「羊たちの沈黙」や京極夏彦の「姑獲鳥の夏」に似ているところがあるようだが、物語の味わいはまるで違う。サイコと妖怪とコンピュータの違いである。どれもそれなりに味わい深い。

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