ダシール・ハメットの探偵小説「マルタの鷹」を1章ごとに精読して分かったこと、考えたことを講義の形で述べた作品論はこれ。
この小説は、いろいろな面をもっている複雑な構造の作品である。ヒーローが危険を冒して財宝と美女を手に入れる冒険小説的な面。男が女に出会い最後に結ばれる(あるいは分かれる)恋愛小説の面。犯人探しと謎解きの探偵小説の面。そして、非情な男の生き方と行動を描き出すハードボイルド小説の面。これらの面が重なり合い繋がりあいながら深くてこくのある味わいをかもし出している。
講義者はこれらの面を小説の終わりの19章、20章で総合的に考察し、次のような結論に至る。<我々が読んできた「マルタの鷹」という小説は、「夢」を見ないと決めている人物が「夢」を見てしまい、その「夢」に裏切られ、空虚な「現実」へと戻っていく物語である。>
ありていに言えば、ハードボイルドの意匠を剥ぎ取り、ロマンチックなベールをひんめくると、非情を気取った女たらしのしがない探偵と、金のためなら色仕掛けや殺しも厭わない悪い女との、仁義なき戦いなのである。ハードボイルド小説の主人公は、夢破れて、苦い幻滅としょぼくれた日常の中に戻っていくしかないようなのである。
今年の9月に、早川書房から小鷹信光訳による改訳決定版が出ている。この「講義」を受講しての改訳である。
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